デザインと技術

スペシャリストコースの一年間のレッスンでは、応用課題として自由にデザインし、素材を選び図面を作成して作り上げる課題があります。そこでは一から考えたり、素晴らしい作品を真似て学ぶ機会にもなります。作品を真似るとしても図面を起こしていく時点で、いくつパーツを入れ込むか、どのようなバランスにするか、というところにデザインが問われます。パリのオートクチュールブランドの刺繍を手がけるアトリエでも、各ブランドに提案するマケットと言われる刺繍のモチーフが刺繍のクリエイティブチームによって生み出され、大切に保管されています。時にはそこからインスパイアされ、デザイナーのクリエイティビティを刺激したり、新しいトレンドが生まれてていきます。
スクールでも、応用課題を重ねながらそうした新しい発想のデザインが受講生の中から生み出されていくたびにワクワクします。また、技術を突き詰めていくと、デザインの洗練につながる瞬間にも出会います。写真の蝶の刺繍も、スパンコールが立ち上がったりするデザインを図面から作り上げた応用課題ですが、アイデアソースになったモチーフに負けない美しい仕上がりになりました。その他の皆さんの応用課題も、それぞれに素敵なものになっていますので、まだ途中段階のものもありますがご紹介します。

 
美しく丁寧な仕事が際立つアクセサリー
裏面の処理まで美しいビーズを敷き詰めたピアス
デザインと色合いや質感が魅力のつけ襟

スピードとクオリティがもたらす価値

一年ほど前からオンラインレッスンを開始し、スピードや質が高いものになってきています。技術を肌感覚で掴んでいく事は、直接の方が伝わりやすいはずなのに、なぜだろうという疑問がありました。オンラインには全てマンツーマンで、手元の仕事をクローズアップできるという点、通学時間を練習に当てられるといったメリットがあります。しかし何よりも距離があるために、伝わりにくい技術や感覚を伝えようというエネルギーと受講者がわの何とか掴み取りたいというエネルギーの相乗効果が大きいようにも感じました。レッスンをする側も、一瞬で1日が終わってしまい、夜には完全にエネルギーを出し切った爽快感があります。
一番早い方は、半年目の試験の時点で2ヶ月ほど先の写真の課題まで進まれています。ストレッチ性のあるチュールの伸縮性に合わせた緩みを持たせなければなりません。やり直しなどもされながら、きつすぎずまた緩すぎない糸調子で作品のクオリティも磨かれています。マンツーマンですので多くの内容を進めていただいても構いません。オートクチュール刺繍は、一年ではこなしきれない奥行きと広がりのある技術でもあります。
糸の質感とラインの強弱が生きた作品
美しいラインで仕上がった雪の結晶
スピー路感があり、技術としての生産性が高い事にも素晴らしい価値があります。私自身もパリコレクションの製作チームをまとめる仕事をしているときに、失敗を通じて痛感しました。
大御所デザイナーの老舗ブランドでのクチュール(仕立て)チームでの仕事だったので、そこでは技術者全員のエネルギーを質を高める方向で取り組みました。幸い、技術力と突破力のある素晴らしいメンバーが集まっていましたので、それぞれの強みを生かし、一つ一つの完成度を高めて行きました。ショーの前日の深夜、最後のモデルはチーム全員で取り組み、スタジオのデザイナーに見せに行きました。しかし帰り際に、もし時間があったら作りたかったというデザインチームの準備した素材やデザインがいくつか置かれていました。ベテランの技術者が、「一体を一人でやってもよかったのでは?」と呟きました。確かに、そうすれば全て仕上がっていたかもしれません。もっとピッチを上げても、熱意あるメンバーのクリエイティブマインドは高まるばかりだったと反省しました。
それ以降、私自身もより時間を意識して仕事をするようになりました。一流の技術者の仕事はとても素早いのですが、なぜか美しく優雅でもあります。一瞬一瞬のクリエイティブに真剣勝負で挑む姿は美しく、何よりも創り手自身が充実した魂の喜びを味わっているのかもしれません。
オンラインでありながら集中して取り組まれる皆さんの姿勢に、こうした技術者の熱意と同じものを感じ、嬉しく思います。今週も皆さんのクリエーションのひと時が輝きますように。



*掲載されている作品・画像・文章などの無断転載・複製・デザインの利用は固くお断りします。*
 
Copyright 2020株式会社エルスタイル,All Rights Reserved.